義兄と私 ―朝の光景―

私の朝は早い。とゆーのも義兄の朝が早いからである。
今朝も義兄は私の部屋にズカズカ入り込んで、

「起きろ、。」

いきなり人の上布団を掴んでひっぺがしやがった。

「うどわぁぁぁぁぁっ?!」

私は上布団に包まって寝る癖がある。となると、こんな風に布団を剥がされたりなぞすると思いっきり体が一回転するわけで…。

回されてクラクラする頭で上を見上げれば、
そこには満足げに微笑した義兄の顔があった。

「目が覚めたか、」

覚めましたとも、嫌っちゅーほどね。

「さっさと着替えて降りて来い。」

義兄は一方的にそう言うとスタスタと行ってしまう。
バタンッと部屋の戸が閉められた時、私は思わずあっかんべーをしていた。



イライラしながら制服に着替えて、髪を整えて、朝食を食べに下に降りたら
義兄は既にテーブルについて紅茶をすすっていた。

「何だ、まだ膨れてんのか?」

当たり前だ、こちとら別に朝練がある訳じゃないのに毎朝毎朝
あんたと同じような時間にたたき起こされちゃたまらんってーの!

私は不機嫌丸出しで義兄の顔が見えるところにドスンと腰掛けた。
(どういう訳か見える位置に座っとかないとうるさいから。)
義兄は何がおかしいのかクックッと笑った。

「何か私の顔についとう?」

尋ねると義兄は別に、と言って紅茶をもう一口。…変な人だ。
話したいこともなかったので私も運ばれてきた紅茶をすすった。

うん、なかなかおいしいミルクティーである。
これで向かい側に義兄の顔さえなけりゃいいのだが。

ちょっとして朝食が運ばれてきた。
ここんちの食事は全部西洋式で、それ故かなりのヴォリウムがある。
長いこと米、味噌、醤油(+緑茶)という日出づる処の民ならではの食生活に
慣れている者にとってちょっと腹に応えるけど、悪くない。

そゆ訳で私は今日もトーストにかじりつく。
上等のオレンジマーマレードの香りがたまらない。
この辺は裕福な家に引き取られてよかったな、と思うところだ。

「幸せそうじゃねぇの。」

唐突に義兄が言ったので私は危うくパンを取り落とすところだった。

「そぉ?」

私は平静を装って再びトーストをモグモグし、紅茶をすすった。
義兄はそれを見てまたクックッと笑った。

 …やっぱりこの人、何か変だぞ。



朝食を終えて身支度を済ませると私と義兄は一緒に家を出る。
それから門を出るといつもの通り従順に待っている樺地と合流して
3人して学校へ向かう。

この間、義兄は私には目もくれない。樺地と話してばかりだ。
私はそんな2人の背中をぼんやりと見つめながら後ろからついていくだけ。

どうせ相手する気がないのなら何も自分と同じ時間に私を叩き起こして、
一緒に登校する事ないのに。
とは思うのだが、前に一度義兄をを放っといて先に学校行ったら、
後で彼の機嫌がすこぶる悪くて他所にまで迷惑がかかりかけたことがあるので
2度と同じことはやれない。

ほんっと勝手な人だ。

「おい、

丁度とあるコンビニの前を通り過ぎようとしていた時、
義兄が珍しく声をかけてきた。

「水筒忘れた。何か買ってこい。」

言って彼は硬貨を1枚、私に向かって放り投げる。
いきなりパシリかよ?! 

だが抗議しようとした私の表情に気づいているのかいないのか、義兄は一言。

「さっさと行ってこい。」

ここでもし更に反抗してその場にじっとしてようものなら
「何やってんだ、グズ」的発言を食らって腹立たしさが増すだけ。

…結局、行くのかよ、って言わないよーに。



「…行ってきました。」

コンビニから戻ってきた私は不機嫌さ全開で500mlのペットボトルの入った袋を義兄に押し付けた。

「意外と早かったな。」

義兄は有り難うの一言も無い。元々期待しちゃいないが、やっぱ腹立つ。

「後、これ。お釣り。」

私はレシートに包んだ硬貨の塊を義兄の手に乗せようとした。
が、義兄は手を引っ込めた。 

「いらねぇよ。」
「せやけど…」
「駄賃だ。お前にくれてやる。」

私は戸惑ったが義兄がそれ以上取り合うつもりがないのを見て取ると、
343円分の中途半端な小銭をそっとポケットに入れた。

まず有得ないとは思うが、義兄の有り難う代わりかもしれない。



たまにこういうアクシデント(?)も交えつつ、私と義兄と樺地の一行は
学校に向かう。
時折義兄が樺地に話しかける声が響く他は、朝早い町の中はとても静かだ。
私は鳥がさえずったり、風が吹き抜けていくのを心地よく感じながら一瞬だけ
義兄たちがいることも忘れて歩く。

そうして眠気も手伝って半ば夢見心地で歩き続けていると

「いつまでボケっとしてる。」

義兄の声でハッと我に返る。気がつけばもう学校についていた。

義兄は樺地と一緒に朝練に行かなければならないから、私はさっさと
自分の教室に向かおうとする。



義兄に呼ばれて私は立ち止まった。

「あんまり俺の知らねぇとこに行くんじゃねぇぞ。」

それだけ言って義兄はテニスコートの方へ行ってしまう。
私は言われた意味がわからなくてそんな彼の背中を見つめてしばらく佇む。


…爽やかなのかそうじゃないのかよくわからない、
これが跡部さんちに引き取られてからずっと続いている私の朝の光景だ。

―朝の光景― End




作者の後書き(戯言とも言う)

…跡部少年は何となく義妹を近くに置いとかないと落ち着かないらしいです。

ってゆーか、偽者化してるよ、跡部少年(汗)

全国の跡部ファンの皆さんのために明日あたり首くくった方がいいかもしれない撃鉄でした。



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